第1章 デリバリー管理
1.4 全社的デリバリー管理 個別改善段階
(1)個別改善段階の概要
個別改善段階での実施事項・ツールを表1.3に示します。
表1.3 個別改善段階の実施事項・ツール
<活動> | <実施事項・ツール> |
デリバリー保証 |
・在庫管理 ・現品管理 |
創発活動 |
・先進企業見学 ・部門チーム活動 |
評価制度 |
・使用面積 ・ライン化率 ・ルート長さ |
方針管理 |
・在庫精度向上目標 ・5S目標 |
改善活動 |
・5S ・業務改善プロジェクト推進手順 ・材料特性別発注
・材料特性マップ 現品管理レベル分析 ・IE7つ道具
・資材管理手順 ・サークル活動 |
個別改善段階ではモノの改善が主体となります。したがってデリバリー保証のしくみでは「在庫管理」や「現品管理」が主要なレベルアップ対象です。
この段階では、レベルアップに取り掛かる前に重要なことが2点あります。ひとつは、自社で抱える問題点を既に解決している事例を知ることです。これによって、「やればできそうだ」「効果が出るんだ」ということを理解することが重要です。もうひとつは、社内のモノの状態を、もういちど見つめ直すことです。管理者ならば自分の担当部署以外も含めて、もういちど現場を自分の目で見ることが重要です。自社の状態と他社の事例を確認することによって、関係者が出発点と到達点についての認識を共有することが活動の原動力になります。
デリバリー改善の場合、全社的な意識統一や方向付けができていない場合が多々あります。このようなときは創発活動で意図的に認識合わせを行うことが最も重要です。個別改善段階の創発活動で最も重要なことは、経営者がデリバリー改善への取組みが経営にとって必要なことを理解することです。
それは論理的に理解するだけでなく、実現可能性と効果を経営者としての感性をもって感覚的にも理解する必要があります。それには百聞は一見に如かずという諺を持ち出すまでもなく、実例を見ることが一番と言えるでしょう。つまり経営者が「先進企業の見学・事例紹介」に参加するのが最も効果的です。同時に管理者・監督者層も参加すれば、目指す姿の共有化が図れるでしょう。
経営者の理解を基に実行方針が立てられ、デリバリー改善に着手します。この段階の活動主体は「部門チーム活動」です。部門別に編成されたチームで、問題点の抽出・改善実行の指示・改善進捗の確認をします。実行指示を伴うため、部門チームのリーダーは該当の部門長が就任します。個別改善段階では、抽出した問題点のうち自部門で解決できるものを改善対象として取り組みます。
評価制度として導入するものは、「使用面積」「ライン化率」「ルート長さ」が代表的です。これらは製造職場での流れの良し悪しを示すものです。一般的に流れの良し悪しは時間経過を追って測定する必要があります。しかし時間を尺度にすると目で見てわかりにくいことが多いため、代替特性として面積や長さという目で見える尺度を使います。
それらのレベルアップを図るために、方針管理では「在庫精度向上目標」「5S目標」を掲げます。通常この段階から取り組む必要のある企業では、モノや情報の流れが軽視されていることから、在庫の現物と帳簿の不一致や、整理整頓の状態が悪いことが多いものです。まずそれを重点に改善します。
具体的に改善を進めるにあたっては、「業務改善プロジェクト推進手順」をもとにして全社の活動を推進します。その中で、「5S」と「材料特性別発注」を実施します。特に資材の調達は、工場の支出の半分以上を占めるだけでなく、社内の業務の流れやタイミングに大きく影響することが多いものです。ですから「材料特性別発注」により、調達方法の改善に取り組みます。
分析手法としては「材料特性マップ」「現品管理レベル分析」「IE7つ道具」といったモノ主体の分析を実施する必要があります。これらの分析を行うことによって現状を的確に把握し、改善につなげます。
並行して「資材管理手順」により、資材担当者が基礎知識を習得することが大切です。また個別改善を小集団で実施すると、改善が進むだけでなく社員全員の改善スキル向上が図れます。小集団を実施していない企業で、これを導入する場合、「サークル活動」の教育も欠かせません。
個別改善に終わりはありません。継続することで改善の基盤が形成できます。しかしながら、やがて次の納期遵守段階に移行する時期がやってくるでしょう。自部門で解決しようとした問題点のうち8割程度が改善できた頃が目安です。この頃になると、自部門だけでは改善しにくい問題が残ってきているはずです。
次項以降では、個別改善段階における特徴的な実施事項・ツールについて簡単に説明します。