第2章 サプライチェーンマネジメントの実践
2.1 サプライチェーンマネジメントの進展
(6)在庫削減から売上向上へ
SCMは当初、ブルウイップ効果の軽減が着目されました。しかしDELLの成功が知られるようになってから、売上向上の効果に着目されるようになっています。DELLはパソコンメーカーとしては後発でしたが、SCMをひとつの武器に売上を拡大しました。
DELLが実践しているのは、「調達・生産・販売の活動を部門間・企業間で連動させ、モノの流れをスピードアップする」というサプライチェーンマネジメントです。しかしそれだけでは売上拡大はできません。SCMを基盤に以下のような要素が加わっています。
・eコマースで直結した最終消費者の個別ニーズに合った
商品をBTOで提供できるマスカスタマイゼーション
・最終消費者直結を最大限生かすブランドマネジメント
・eコマースとBTOの組合せによる納期と製品在庫削減の両立
・BTOとVMIの組合せによる部品在庫削減
・在庫コストの削減と流通コスト削減による買い得感のある価格設定
・在庫による製品陳腐化を回避した製品競争力の維持
DELLのこうした売上拡大構造を総称して「ビジネスモデル」と呼ばれることがあります。DELLのビジネスモデルは、SCMを基盤として上記のような要素が連動したものと言い換えることができるでしょう。
ビジネスモデルとは、様々な捉えかたがあります。しかし製造業・流通業では、SCMを基盤に他の要素を組み合わせたものが、その代表でしょう。SCMの展開は、売上と利益を拡大することに行き着くのです。
材料や部品を供給している企業でも、社内のビジネスプロセスのスピードを上げ、低コスト・高機能の材料を素早く妥当な価格で市場に提供できることが可能です。そしてeマーケットプレースで新規の顧客を開拓すれば売上や利益の拡大が実現できます。
製造業のサービス業化が唱えられてから、すでに長年経過しています。最近では「経験経済」が提唱されています。映画・演劇・テーマパーク、美術館などにおける感動経験に人々が価値を認める時代になってきています。娯楽・教育・脱日常・審美などが経験経済でのキーワードです。
しかしながら、サービスやエンターテイメントの世界でも、モノの流れは必要です。モノそのものや、その提供タイミングが感動経験の鍵となる場合もあるでしょう。モノに関わる産業では、SCMの重要性は増すことがあっても減ることはありません。