第2章 サプライチェーンマネジメントの実践
2.1 サプライチェーンマネジメントの進展
(5)アウトバウンドからインバウンドへ
現在、SCMで一番注目されているのが取引の電子化です。そのなかでも最初に注目を集めたのが、eコマースです。インターネット上のWEBページが仮想店舗となった通信販売です。中間業者を介さずに一般消費者に物品を販売できるのが特徴です。製造業者がその主体となる場合には、出ていくモノの取引に関するテーマなのでアウトバウンドと呼ばれることもあります。「企業から消費者へ」という意味で、Business to Consumerの頭文字をとって、BtoC(B2C)と呼ばれています。
製造業者がすべての製品をeコマースで消費者に販売できれば、製品のサプライチェーンは物理的にシンプルになり、コントロールは容易です。さらに受注生産にできれば製品在庫は不要となり、倉庫や在庫帳簿もなくせます。コントロールは、さらに簡単にできます。これを実現したのがDELLです。しかしホームページで受注したものを、生産・出荷するだけでは逆効果です。
どこにでもあるような品揃え、大差ない価格で、受注生産によって納期が長くなれば、誰も買いません。DELLの特徴は、eコマースにBTO(Build To Order)を組み合わせたことにあります。消費者から見たDELLの魅力は、自分自身が欲しいスペックの機器を組み合わせたパソコンが手に入ることです。これが売上の原動力になっています。しかしこれを受注生産で対応すると、通常は納期が長くなってしまいます。陳腐化の激しいパソコン市場で、すぐ手に入らないということは致命傷です。DELLは共通部品を在庫しておいて、注文を受けてからそのスペックに合わせて組立てて出荷するBTO方式をとることによって納期を短くしています。製品の設計、組立てラインの設計、生産拠点の配置などが、すべてeコマース+BTOを前提としているのです。
次に取引の電子化で話題になったのが企業間取引です。製造業者から見ると、入ってくるモノの取引に関するテーマなのでインバウンドと呼ばれています。企業間の取引ですから、BtoB(B2B)とも呼ばれています。
あるモノがサプライチェーンを通して一般消費者の手に渡るまでに、B2Cの取引は1回だけです。しかしB2Bの取引は材料の段階から製品流通段階まで、複数回発生します。また一般消費者の手に渡らない、企業の資産となるモノの取引もあります。取引の総規模はB2Bのほうが、はるかに大きいのです。これが注目を集めた理由です。
取引業務の種類から見ると、B2Bにはふたつの領域があります。ひとつは、日常の受発注や需要情報・生産計画・在庫情報をインターネットを利用して安く、早く伝達するものです。インターネットEDIと総称されますが、web画面を利用するものはwebEDIと呼ばれています。
もうひとつはeマーケットプレースの領域です。これは新規取引業者の候補選出や新製品・新部品の業者選定をインターネットを利用して全世界を対象に行うものです。
B2Bの世界では、大小さまざまなマーケットが形成されつつあります。そこでは通信プロトコル、ビジネスプロトコルの標準化が必要です。ロゼッタネットはその代表ですが、
他にも各種あります。現在は、マーケット間の覇権争い、プロトコルのデファクトスタンダードを狙った覇権争いが進行中です。
世間の耳目を集めるB2C、B2Bですが、万能ではありません。それについては2.3節で補足します。