第1章 デリバリー管理
1.4 全社的デリバリー管理 個別改善段階
(4)現品管理レベル分析
デリバリー改善の初期段階はモノの改善が主体となるので、5Sが基本となります。
5Sとは「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「躾」の頭文字を指していることは、ご存知でしょう。製造業に従事してる人なら「5Sは本当に必要なのか?」という疑問を持つ人は、まずいないでしょう。もちろん5Sは、強い製造業の十分条件ではありません。しかし必要条件であることは間違いありません。その効果をあらためて振り返ってみましょう。
まず、昔から言われているのが、組織の規律面の効果です。「5Sすら徹底してできない会社が年度方針や戦略が遂行できるわけがない」ということです。5Sは企業における他の業務や施策と同じです。経営者・管理者が、その意義・効果を明快に説明できることが必要です。また実行するために、上司が手段を示したり、ツールを提供することも必要でしょう。さらに個人のスキルアップや習慣づけが必要なことも他の業務と同じです。
物理的な側面の効果を見てみましょう。職場の5Sが不徹底だと、職場に不安全状態や不安全行動が発生しやすくなり、災害や事故発生の要因になります。また、切り粉やゴミなどのため機械設備の劣化や精度低下をもたらし、故障やトラブルを発生させます。さらに、5Sを実施しないと、いるモノを探す時間が長くなり、不要品で作業スペースが狭くなったり、作業能率を低下させたりします。
製造職場の工数・設備・スペースのうち、モノの保管や移動に使っている比率は、細かい部分まで合計すると全体の20〜30%に達することが珍しくありません。手作業による組立て工程などでは、もっと多い場合もあります。モノ探しの時間や不要品に使われているスペースが、この中に相当数含まれているのです。5Sはそれらのムダを減らす効果があります。
さらにデリバリー管理の観点からは「整理」による問題発見効果が重要です。整理する時に、いらないモノを区別するだけでなく、なぜそれが発生したかを考えるのです。それによって問題を顕在化させるのです。
これは製造職場だけでなく、事務職場でも同様です。机の上のいらない書類がなぜ発生したかを考えると、そこには情報フローのタイミングを悪化させる業務の問題が浮かび上がってきます。たとえば、机の上に積まれたまま放置されている書類があるとしましょう。それが他部署から送られてきた書類ならば、職務権限上もともと不要だったかもしれません。あるいは、その机に座っている人の処理能力不足の問題かもしれません。他部署へ渡すべき書類ならば、内容に不備がある不良品のために放置されている可能性もあります。一度読めば不要になるメモのような書類が放置されている場合ば、廃棄作業のサイクル、つまり毎日整理すべきものを面倒がって1カ月ためてしまったということかもしれません。整理を進めながら、こうした問題を発見して改善に結び付けることがデリバリー管理における5Sの最大の効果です。
また、生産部門だけでなく、開発部門や営業部門へも5Sを徹底することが必要です。5Sが徹底できていないと、その部門だけでなく、他部門へ直接・間接に悪い影響が出ることがあります。例えば、開発部門で部品の5Sが徹底できていないと、試作用の部品が足りなくなることがあります。その部品を生産部門が量産用に調達した部品から借用すると、量産の計画が混乱します。さらに期日までに返すという躾が徹底できていないと、さらに量産が混乱することがあります。
開発部門が試作して不良品になったものを、量産用の倉庫に保管するということもよくあります。売れ残って返品になった製品を、営業が量産用の倉庫を借りて保管することもあるでしょう。この場合も整理を徹底せずに、不要物を処分しないでいると、量産用の保管場所を圧迫します。特に同じ事業所内に生産・開発・営業がいる場合には、全部門で5Sを徹底することが重要です。
さて、実際に5Sを推進する場合、特に現品管理の5Sが重要です。全社的デリバリー管理では、それを推進するために現品管理の状態を定量化して評価します。これが「現品管理レベル分析」です。これは現品管理に関するさまざまな側面を5段階で評価します。所定の評価基準に従って評価した結果を図1.14のようなレーダーチャートに表わします。それによって現品管理状態の強み・弱みを可視化します。
強みと評価された管理方法については、固有のノウハウとして工場全体に展開していき、弱みと評価された管理方法については、他部門の現品管理状態を参考にしたり、改善活動によって問題解決について取り組むことで管理レベルを向上させていきます。
また、工程別に評価を行うことにより、工程間の競争意識が生じるので、職場活性化を推進する原動力ともなります。さらに改善前と改善後の現品管理レベルの変化についても、同一レーダーチャートに表現すれば、改善後効果の大きい分野を明らかにすることができます。