「生産清流化」は、製造企業における業務革新・組織革新のシナリオです。納期短縮を目標として事業環境の変化に対応できるスピードを獲得します。組織革新の方向は自律化です。自律化によって組織の意思決定スピードを速くします。意思決定を速くするために組織は「分権化」していきます。組織の前線に意思決定権限を持たせることによって変化への対応を速く自律的にできるようにします。
■3段階で自己決定化を進める
組織の前線に意思決定権限を持たせる場合、2つの段階に分けて進めるとよいでしょう。第1段階は日常業務の自己決定化です。営業・開発・調達・生産などで日々発生する業務の意思決定を前線に移譲します。第2段階は年次計画の自己決定化です。年次方針や年間の予算計画などを前線に移譲します。第3段階は中長期的な判断の自己決定化です。新たな事業の開始と顧客の獲得、正社員の採用、設備投資など、中長期に影響する判断を組織の前線に委譲します。
■中長期的な判断の自己決定化を進める
年次計画の自己決定化を卒業したら中長期的な判断の自己決定化へ進みます。課や係といった単位組織ごとに新たな事業の開始、正社員の採用、設備投資などを決定します。この段階に至ると課や係があたかも独立した企業のように振舞うことができるようになります
■ストーリーアウトの時代
最後は課や係といった単位組織が顧客の獲得についても自己決定する段階へ進みます。その場合のキーワードは単位組織が自らのストーリーを持つことです。
顧客と商品の観点から日本の製造業の時代を区分すると。大戦後の1940年代から1960年代はプロダクトアウトの時代と呼ばれました。モノが不足していたので製品を出せば売れる時代でした。1970年代から1990年代はマーケットインの時代です。モノがあふれる時代になって、市場の声を聞いて商品を開発しないと売れなくなりました。
2000年代以降はさらなる差別化が求められています。顧客の声を聞いて作った商品は各社同じようになってきたからです。また本当に新規性のある商品は顧客は知らないので、顧客の声からは出てきません。供給者が持つ独自性やこだわりに基づいた商品を提案しないと売れない時代です。私はこれを「ストーリーアウトの時代」と呼んでいます。
■こだわり商品の方向
ストーリーアウトの時代は、個人や小さな組織の持つこだわりや独自性が勝負を決めます。プロダクトアウトの時代は大量生産力、マーケットインの時代は情報収集力が今日はいの鍵でした。その時代とは競争力の源泉が変わっているのです。
小さな組織のこだわりが最も活かせるのは、顧客もこだわりを持つ商品です。例えばアパレルなどのファッション関係の商品が代表です。人と違うものを着たい、ファッションで個性を発信したいという人は大量生産、マスマーケティングから生まれる商品を買いません。アクセサリーや時計など身につけるモノも顧客がこだわりを持つ商品です。高価な機械式時計を買う人は時間の正確性ではなく、ステータスと自己表現を買っているのです。楽器、オートバイ、プロ用の機器など操縦や操作やが伴うモノも顧客がこだわりを持つ商品です。フェラーリを買う人は必ずいるのです。
■人口減少時代はチャンス
こだわり商品を狙う作戦は「顧客が少ないのでは」という疑問があるかもしれません。特に日本は人口減少時代です。人口とともに顧客も減っていくのではと思うかもしれません。
その心配は無用です。現代はインターネット社会です。日本から全世界へ向けて情報が発信できます。こだわり商品の顧客は全世界にいるのです。一方、日本の人口は減るので大人数の雇用を維持する必要はないのです。スイスは人口が少ない国ですが、高級時計では世界で存在感を示しています。人口減少時代はこだわり商品の方向を選ぶならばチャンスなのです。
■ガラパゴスより小笠原
日本の携帯電話はガラパゴスと呼ばれていました。独自進化を続けた結果、島国の中でしか通用しない商品となってしまったのです。ここで問題なのは独自進化ではありません。それをマーケットインの思想で続けてきたことです。日本市場の声だけを反映した商品開発をしてきたのが問題です。独自性を世界に発信すればガラパゴスではく小笠原諸島になれたでしょう。
唯一無二のストーリーを持ち、それを基にした独自の商品を世界に発信していくならば、企業は継続できるでしょう。その源泉は自律化した小組織なのです。
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