納期半減の生産清流化
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製造企業のデリバリー管理とSCM
第1章 デリバリー管理
1.2 デリバリー管理とは
 (1)納期・リードタイム・在庫の問題とデリバリー管理

 今日、企業経営にはスピードが要求されています。しかし、「納期短縮要望に応えられない」「新製品展開が遅れる」「死蔵品の廃棄が多い」「在庫が多く運転資金を圧迫している」といった問題を抱えている製造企業が、まだ多数存在します。筆者は、こうした問題を「デリバリー問題」と呼んでいます。そしてこれらを改善する活動が「デリバリー管理」です。

 「品質管理」「原価管理」は従来からありました。しかし「デリバリー管理」だけがなかったのは、なぜでしょうか。デリバリー管理は、組織的・地理的に広範囲にまたがる時間やタイミングを総合的に扱う必要があります。しかし組織やタイミングは捉えにくい対象です。そのため、総合的に扱う枠組みが作りにくかったという技術的な理由があります。

 もうひとつの理由は製造業が置かれてきた社会的状況にあります。それでは製造業における管理活動の歴史的変遷を振り返ってみましょう。

 製造業における管理活動の歴史を溯ると、その歴史は19世紀後半に溯ることができます。まず登場したのは「作業管理」の技術でした。産業革命によって製造業や工場が社会制度として確立するとともに、そこで働く作業者の能率管理が研究されました。その代表は1881年に発表されたテイラーによる時間研究や、1885年に発表されたギルブレスの動作研究です。製造業の管理手法の原点は、これら作業管理から出発したのです。

 そしてこれらの手法が1911年のテイラーによる科学的管理法や、1913年のフォードによるコンベヤーシステムへと発展して行きます。

 20世紀初頭になると「原価管理」が体系化されました。1912年にはエマーソンの標準原価管理、1920年にはノイッペルの損益分岐図表が発表されています。

 同時期に品質管理の体系化も始まりました。代表的なものは1924年に公表されたシューハートの管理図、1920年代に確立されたと言われるフィッシャーの実験計画法です。

 作業管理、原価管理、品質管理は1920年代までにその原型が出来上がりました。しかしながら在庫やリードタイムに関する管理手法は、ずっと後になってから登場します。1957年にデュポン社で開発されたCPM(Critical Path Method)、1958年にアメリカ海軍で使われれ始めたPERT(Program Evaluation and Review Technique)がその先駆けです。そして1960年代になってトヨタ生産方式とMRP(Material Requirement Planning:資材所要量計画)が登場します。

 日本の状況を見てみましょう。日本で製造業におけるこうした管理手法が本格的に導入されたのは、第二次世界大戦後だと言われています。

 第二次世界大戦ではあらゆる産業が打撃を受けました。なかでも製造業は都市部やその周辺にあったため、特に損害の大きい産業でした。そして戦後の復興期を迎えて、製造業の最初の課題は生活・産業に必要な物資の供給でした。1940年代の後半から50年代の前半において、製造業の管理ポイントは量確保だったと言えます。生産量を確保するために、限られた労働力で効率よく加工することが管理の重点でした。当然、管理手法の主役は「作業管理」です。

 1950年代後半になって、経済の復興が本格化しました。その原動力は繊維製造業などが中心となった輸出による外貨獲得です。この時代、グローバル市場における日本の工業製品の競争力は、その低価格が源泉だったと言えましょう。欧米に対する低賃金と日本人の勤勉さが低価格を支えていました。また製造職場の管理手法も、「原価管理」を第一義とすることで、それに貢献していました。

 次第に高賃金化してきた都市部の人材に代わり、農村部の若年層の人材を集めること、そして長時間の労働に従事させること、加工機械や作業をスピードアップすることが工場管理の重点となりました。低価格を武器に、メイドインジャパンの工業製品が世界へ輸出されていきました。しかしそれらは「安かろう悪かろう」と呼ばれた粗悪な品質の製品の代名詞でもありました。

 それでも低価格を武器に、工業製品は経済成長に貢献しました。しかしながら高賃金化に伴い、低付加価値の工業製品は次第に競争力を失い、産業の主力は高品質、高付加価値の製品に移ってきました。輸送機械、電気機械などがその代表です。これらの産業が発展した時代の管理手法は、当然ながら「品質管理」が重点です。統計的品質管理、全社的品質管理(TQC)が各社へ導入されたのがこの時代です。

 ところが社会の成熟化に伴い、製造業には量・価格・品質だけでなく、多様化したニーズへの対応が求められるようになったのです。商品の多品種少量化、ライフサイクルの短縮によって、商品はすぐ陳腐化するようになりました。加えて従来の価格、品質の改善手法ではその効果に限界が見え始めました。この時代に重視されはじめたのがトヨタ生産方式(JIT)です。これがデリバリー関連手法の創生期と考えられます。他の管理手法が欧米で形成されたのに対して、デリバリー関連手法はトヨタ生産方式という形で日本から発信されたことが特徴です。

 こうして世界と日本の製造管理手法の歴史的変遷を振り返ってみると、生産量拡大のための作業管理を出発点に、原価管理、品質管理、デリバリー管理と発展してきたと言えます。

 デリバリー管理に関連する手法が比較的遅い時代に登場した理由は、ふたつあります。ひとつは、前述したようにデリバリー管理が、材料入手からお客様への商品提供に至るまでのモノ・カネ・情報のフローの組織的・地理的に広範囲にまたがるタイミングという捉えにくい対象を扱うことです。そのなめ、総合的に扱う枠組みが作りにくかったという技術的理由です。

 もうひとつは社会的な要請です。作れば売れた時代から、良いものしか売れない時代、目新しいものしか売れない時代に変わってきたことに対応して管理技術が発展してきたためです。また、納期・リードタイム・在庫の削減という扱いにくい観点から、生産行為におけるムダを極限まで省かないと、多品種少量化に対応できないだけでなく、原価や品質も競争に勝てなくなってきたことも理由でしょう。

 こうして、日本の製造業は高付加価値商品へのシフトと、管理の重点の変化を伴いながら1980年代には世界随一の競争力を獲得しました。欧米諸国に追いついただけでなく、追い越したかと思われました。ところが1990年代になって様相が一変します。プラザ合意以降の円高、バブル経済の破綻によって経済の実態が浮き彫りになった時、日本の製造業もその環境と実力が明確になったのです。

 国外に目を向けると、低迷していたアメリカ製造業は復活し、アジア諸国の追い上げは急でした。また諸外国とのグローバル競争を念頭に国内の環境を見ると、製造業が利用するエネルギー・運輸・サービスなどの価格は世界一高いものでした。国際価格で比較した場合の製造業とサービス業の価格差、いわゆる内内価格差を抱えて製造業は世界と競争していたのです。

 加えて金融不安です。銀行の経営破綻が相次ぎました。またその経営の立て直しのために早期是正措置の導入が図られ、貸し渋りが起こっています。こうした現象は金融業だけの問題ではなく、経済全体が必要資金を生み出せなくなっていることが原因です。  実力が明らかになったいま振り返ると、デリバリー管理によって、ムダを極限まで省くことができたのは、主に製造職場が中心であり、しかも一部の先進企業だけだったのではないかと考えられます。

 今まで「デリバリー管理」という言葉すらなかったのですから、製造の重要な目的のひとつであるデリバリーに関して、総合的に改善する体系はなかったと言っていいでしょう。工程管理、在庫管理、物流管理といったデリバリー管理の一部を構成する活動が、個別に存在していたのが実状です。一部の先進企業だけが実践できていたのは、ここに原因があります。

 材料入手からお客様への商品提供に至るまでのタイミングを望ましい姿にするには、それを決定する社内の機能や組織の間の連携が非常に重要になります。例えば、ある工程で加工時間を短縮したり、大ロットで加工しても、それは別の工程での停滞を増やすだけになります。デリバリー管理は、総合的な取組みが重要なのです。

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