3.現実逃避型の対策 (2)未来の想像力を上げる記録 前節で「現実逃避型」の先延ばしには「実績を書く」「予定を書く」ことが有効であることを示しました。脳科学の研究によると、未来を考えるには過去の記憶がベースになるといわれています。記憶を強化するには記録する訓練が有効なのです。 ここで記憶についての脳科学の知見をもう少し補足しておきましょう。記憶は留まる時間によって短期記憶と長期記憶に大別されます。短期記憶は数秒〜数時間程度保持されるものです。脳をコンピュータに例えると短期記憶はワーキングメモリに相当します。長期記憶は忘却しない限り一生続く記憶です。コンピュータではハードディスクに相当します。 さらに長期記憶は手続き記憶と陳述記憶に分けられます。手続き記憶は、動作に関する記憶です。箸を使う、自転車に乗るといった特定の動作や行動に関する記憶です。いわゆる「体で覚える」記憶に相当します。手続き記憶は、哺乳類脳が司っています。犬は訓練すると飼い主の指示に従って行動できるようになります。サーカスの熊は訓練でオートバイに乗れるようになります。人間も生まれた直後から手続き記憶が蓄積されます。動作や言葉は生まれた国の文化に左右されます。 陳述記憶は言葉で表現できる記憶です。前頭連合野(人間脳)が司っています。自我や長い時間の感覚に関連すると言われています。生まれた直後には発達しておらず、3歳以降に発達すると言われています。この記憶が未来への想像力の基礎になっています。「明日何をするか?」という問いに、まともに答えられるのは3歳児で1/3、5歳児で2/3程度だそうです。昨日何をしたかを覚えられるようになると明日何をするかが答えられるのです。 類人猿の場合は少しだけ未来を想像できるようです。チンパンジーはクッキーをすぐ食べずに我慢すれば大きなクッキーがもらえるとわかると最長で8分待てるという実験結果があるそうです。しかし人間は昨日の記憶があるから明日が想像できる。1ヶ月前の記憶があるから1ヶ月後が想像できるのです。さらに人間の場合、100年前の記憶がなくても歴史に学ぶことができます。記憶+記録が未来への想像につながるのです。
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